米国の高配当ETFの過去10年の年率リターンを並べると、少し気持ちの悪い並びになります。SCHDが12.9%、VYMが11.6%、HDVが9.3%、SPYDが8.5%。
気づく人はすぐ気づくと思います。配当利回りが高い順に、そのままリターンが低いのです。偶然にしては綺麗すぎる並びで、僕はこの表を見たときに高配当投資への見方が変わりました。
なぜ利回りが高いほどリターンが低くなるのか
理由の1つ目は、配当利回りが高いこと自体が「成長を諦めた」サインになりやすいからです。稼いだお金を新しい事業に投資して増やせる企業は、配当ではなく再投資に回します。逆に、投資先が見つからない成熟企業は配当で株主に返します。
高配当を条件にスクリーニングをかけると、この成熟企業ばかりが集まります。結果として、株価が伸びる企業を最初から除外してしまう構造になっています。
2つ目は、セクターの偏りです。特にSPYDは金融や不動産の比率が高くなりやすく、過去10年で最も伸びたハイテクの恩恵をほとんど受けられませんでした。この10年の米国株のリターンは、かなりの部分が一部の巨大テック企業によって作られています。そこを外したポートフォリオが劣後するのは当然です。
3つ目は税金です。配当を受け取るたびに課税されるので、そのぶん複利に回るお金が減ります。米国株なら現地課税もかかります。株価の値上がりは売るまで課税されないので、この差は年数が長くなるほど広がっていきます。
S&P500を買って必要な分だけ取り崩す、という選択
では毎月のキャッシュフローが欲しい人はどうすればいいのか。1つの答えは、S&P500のような成長を含む指数を買って、必要な分だけ売って取り崩すことです。
高配当ETFの配当が年4%だとしても、それは4%を強制的に受け取らされているだけです。自分で年4%売れば、同じキャッシュフローを作れます。しかも売る金額を自分で決められるので、必要ない年は売らずに複利を続けられます。
成長株も含んだ指数を買って必要なときだけ切り崩すほうがリターンが高くなる、というのは直感に反しますが、上の年率リターンの並びを見ると納得できます。配当という形にこだわらないほうが、手元に残るお金は増えやすいのです。
ただし取り崩しには弱点があります。下落局面で売ると、安いところで数量を減らすことになります。この点は配当のほうが精神的に楽です。
それでも高配当投資が向いている人
数字だけで結論を出すと乱暴になるので、高配当が合う場面も書いておきます。
1つは、売る判断が苦手な人です。取り崩しは毎回自分で決断する必要があります。配当なら勝手に入ってくるので、判断を挟まずに続けられます。投資で最大の敵は途中でやめることなので、続けられる方法に価値があります。
もう1つは、すでに資産形成が終わって取り崩しの段階にいる人です。増やすことより、生活費を安定して受け取ることが目的なら、配当という形は合理的です。
逆に向いていないのは、これから20年30年かけて増やしたい人です。増やす段階では、配当で受け取って課税されるより、企業の中で再投資してもらったほうが有利になりやすいからです。
僕の結論
僕は資産の3割を投資信託で持っていて、高配当ETFは持っていません。理由は、増やす段階にいると自覚しているからです。
ただし、SCHDのように配当を出しつつ年率12.9%を出しているETFがあることも事実です。高配当が悪いのではなく、利回りの高さだけで選ぶのが危ないという話だと理解しています。
選ぶなら、利回りではなく中身を見るべきです。どんな基準で銘柄を選んでいるのか、増配の実績があるか、セクターが偏りすぎていないか。利回り8%を追いかけるより、この3つを確認するほうがリターンに効きます。
よくある疑問
Q. 配当は再投資すれば同じですか。A. 税金の分だけ不利になります。受け取るたびに課税されるので、再投資に回せる金額が減ります。
Q. 日本の高配当株はどうですか。A. 同じ論点が当てはまります。ただ日本では東証の要請で還元姿勢が変わってきているので、増配余地のある企業は状況が違う可能性があります。
Q. 利回り8%のETFは危ないのですか。A. 危ないというより、期待できるのは配当だけで株価の成長はあまり期待できない、と考えるのが自然です。
この数字を調べたきっかけ
僕が高配当ETFを調べ始めたのは、憧れがあったからです。月収13万円・借金400万円だった頃、毎月お金が勝手に入ってくる仕組みがいちばん欲しいものでした。労働以外の収入があれば、あの生活から抜け出せると思っていました。
だから最初に興味を持ったのは利回りです。SPYDのような数字を見て、これを積み上げれば生活費が賄えると計算していました。
ところが10年の実績を並べた瞬間に、その計算が崩れました。利回りで選ぶと、増える速さを犠牲にしていた。資産が小さい段階でいちばん大事なのは、受け取る金額ではなく増える速さです。今の僕が高配当を持っていないのは、この順番に気づいたからです。
ちなみに僕自身は、旧NISAで年40万円を3年ほど積み立てた140万円が現在358万円になっています(資産全体の内訳はこちら)。やったことは買って放置しただけです。配当を受け取らずに指数へ入れておいただけで、これだけ差がつきました。
10年という期間の注意点
公平のために、このデータの限界も書いておきます。過去10年の米国株は、歴史的に見てもかなり恵まれた期間でした(円建てで見ると為替の追い風が約+56%乗っていた点も見逃せません)。低金利とハイテク企業の急成長が重なった、成長株にとって最高の10年間です。
つまりこの比較は、成長株が最も有利だった期間を切り取っている可能性があります。金利のある世界が続き、割安なバリュー株が見直される局面が10年続けば、順位は入れ替わるかもしれません。
それでも、利回りの高さがリターンを保証しないという結論は変わらないと思っています。高い利回りは、企業が成長よりも還元を選んだ結果か、株価が下がって利回りが上がっただけかのどちらかです。どちらも将来の成長を約束するものではありません。
まとめ
SCHD 12.9%、VYM 11.6%、HDV 9.3%、SPYD 8.5%。利回りが高い順にリターンが低いという事実は、高配当という言葉の魅力に対する冷や水です。
増やす段階なら成長を含む指数、受け取る段階なら配当。この使い分けを決めておけば、利回りの数字に惑わされずに済みます。
※本記事は公表されている実績データに基づく個人の見解であり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。過去のリターンは将来を保証しません。